追想 –土は語る-吉村 利美 展
2019年3月30日(土) 4月14日(日)
11:00-18:00 [火曜日 休廊]
吉村利美さんが逝かれて間もなく3年
東海の地では 光玄のみの開催でした。
久方振りに次回展を目論見 青森・弘前を訪ねる予定でしたが、
吉村さんの都合で延期。その数か月後に旅立たれて仕舞いました。
誠に残念至極。
今展は遺作を展示するに当り、追想と題しての展観となります。
詩的感性を研ぎ澄ましての制作から生まれる作品たちは、ほんのりと温かく、詩人或いは音楽家的な面も持ち合わせた自画像ではと思われます。
吉村 利美さんならではの、独自の世界をごゆるりとご堪能ください。
土で書いた詩
詩人は土をこねながら、遠い森からやってきた。
吉村利美を追想すると、そう思う。
詩人とは、世界と語りあうことを務めとした使者である。
なぜ、この詩人は鉛筆ではなく、絵筆でもなく楽器でもなく、
そのほとんどは土を持っていたのだろうか。
それは詩人が残した書き物を見ると、分かる。
「かたつむり」と題したもの。
~(略)しかしそのかたつむりは、灰白色の白さが示すように、
既に夏の姿とは違うものであった。
石灰質になってしまった風化寸前の抜け殻だった。
(略)掌の中の粘土は今日もまだ、眠ったままだ。
あのかたつむりの残像は、しかし、
この自由な粘土の何処かに在るはずだ。~
ここで、詩人は、風化寸前のかたつむりの抜け殻に、
存在そのものを見ている。
「七つの音」と題された丸く小さな七つの蓋物がある。
おのおのに色があって
自由に動かせるそれは音符のようだ。
蓋を開けると色が舞い上がり、
やがて宙で音と溶け合う。
静かで、華やかな、そして寂しい音。
色と音のすべてが、蓋を閉めるとひっそりと中に鎮まる。
それは、蓋物の形をした詩だ。
ほかにも、見つけられる。何を?
口を宙に向けた瓶を。
小石の跡がぽっかりあいている陶板を。
傷つけられた箱を。
窓の穴がひとつしかない塔を。
それらは、みな、待っている。何を?
土で書いた詩が世界に溶け込むのを。
梅津 時比古
(音楽評論家 桐朋学園大学学長)
吉村利美 略歴
1949年 | 茨城県結城市に生まれる |
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1970年 | 弘前大学人文学部文学科中退 |
1977年 | 茨城県笠間市に移る |
1980年 | 青森県青森市三内に移住して登窯を築窯 |
1993年 | 青森市松原に移住 |
2015年 | 青森県弘前市に移住 |
2016年 | 11月逝去 |
2018年 |
5月「使者の記憶」 吉村利美 土と語った作品集を刊行 9月東京芸術大学附属図書館に作品集を収蔵 9月桐朋学園大学附属図書館に作品集を収蔵 |
出品歴
- 朝日陶芸展
- 八木一夫賞現代陶芸展
- 陶芸ビエンナーレ特別賞
- 国際陶磁器展美濃
- 日本陶芸展 ほか
個展
- 阪急梅田(大阪)
- アートサロン光玄(名古屋)
- 酉福(東京・南青山)
- しぶや黒田陶苑(東京) ほか
二人展
- アスクエア神田ギャラリー(東京) ほか